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2022.11.30 脳梗塞の後遺症
脳梗塞で見られるむくみ(浮腫)とは?
この記事の監修者
加藤 隆三
理学療法士
脳梗塞で当施設に来院される方の多くが、麻痺による手足のむくみ(浮腫)に悩まれています。担当医からは「麻痺によるむくみだから運動をしましょう」という指示が多く、中にはむくみ(浮腫)が増大した場合でも「どうせ運動を勧められたり、湿布を処方されるだけでいつもと変わらないから行かない」と再受診を拒まれる方がいらっしゃいます。しかし、脳梗塞後のむくみ(浮腫)には運動して筋力をつける事で改善するものもあれば、受診をしないと完治しないものもあります。蜂窩織炎などの腫れ(腫脹)の場合は運動のみでは改善されず受診が必要です。また、お客様の中にはむくみ(浮腫)と腫れ(腫脹)を誤解されている方やご自身で判断され、受診せずに症状を悪化させてしまう方もいらっしゃいます。今回は「むくみ(浮腫)」と腫れ(腫脹)」の違い、脳梗塞の手足に見られるむくみ(浮腫)を解説しますので、受診すべき症状の理解を深めていただきたいと思います。
目次
- むくみと腫れの違いについて
- むくみの種類と原因
- むくみ・腫れの注意すべき症状と受診のタイミング
- 脳梗塞後、むくみや腫れを生じやすい部位
- 脳梗塞のむくみに対する治療方法とは?
- 脳梗塞のむくみ(浮腫)にお悩みの方は、専門家に相談しよう
むくみと腫れの違いについて
むくみ(浮腫:ふしゅ)とは?
むくみは血液の中にある水分が血管の壁からしみ出てしまい、それが皮下に溜まっている状態のことを言います。
むくみの特徴として、「膨らんでいる箇所を指で押してみてへこむ」事が挙げられます。また長時間、靴下を履いた後にゴムの痕が長く残っている状態なども、むくみによくある症状です。
むくみは主に血液の循環が悪い部分や、一日中座って過ごしていると重力によって足部に出現しやすい傾向があります。今すぐ命にかかわるほどではないと放置される方が多くいらっしゃいますが、長期的に放置しておくと静脈の流れが悪くなり、血栓が出来てしまう場合もあります。作られた血栓が肺などに飛んでしまい、重篤な症状を来たす場合があります。このような事態に至ってしまう前に、かかりつけ医に相談をしましょう。
腫れ(腫脹:しゅちょう)とは?
一方、腫れというのは「指で押してもへこまない状態」です。具体的には何らかの炎症が起きていて、皮膚もしくは皮下に水分がたまっている状態のことを言います。むくみの場合でも、指で押してもへこまないことがありますが、腫れの場合は他にも次のような症状が出現しますので、併せてチェックするようにしてください。腫れは【腫れている箇所を押すと強く痛む】、【触ると他の箇所より熱く感じられる】、【皮膚が赤味を帯びている】といった症状が出現することが特徴です。そのような症状が見られたら記録をとっておくと良いでしょう。また、繰り返される腫れに対しては、数日で消えるものか、長く続いているか、記録があると受診の際に役立ちます。いずれの場合も生活上に影響が生じる場合は悪化する前に医療機関に受診をしましょう。
むくみの種類と原因
むくみはイラストのように水分が皮下に染み出す量が多く、血液やリンパ管に戻る量が少ない場合に生じます。またむくみの特徴や原因から【健常者でも起こりえるむくみ】と、【特定の疾患によって生じる「局所性浮腫」と「全身性浮腫」】に分けられます。ここでは、それぞれのむくみの特徴と原因について詳しく解説していきます。
健常者のむくみ
私達の身体の60%は水分で出来ています。そのため、立ちっぱなし・座りっぱなしの状態が続くと、重力の影響で身体の水分が下(足側)に溜まってしまいます。健常者のむくみは、このように重力の影響で下半身に溜まった水分が心臓へ戻る事が出来ずに、そのまま足に滞ってしまう事が原因です。本来、ふくらはぎなどの筋肉が動くことでポンプのような作用が働き、血液などを心臓に押し戻してくれます。しかし、運動不足によって筋力が低下すると筋のポンプ作用が低下し、むくみが出現しやすくなります。女性の場合、冷え症から生じるむくみは代表的とも言えるでしょう。また、体が冷える事で血のめぐりが悪くなって溜まってしまう症状もよく見受けられます。更に、むくんだ部分まで充分に血液が送られてこなくなるため、ますます冷えてしまうという悪循環も起こりがちです。
局所性浮腫
局所性浮腫は、身体の特定の一部分に生じるむくみになります。むくみの部分を押してみて痕が残るもの(圧痕性)か、残らないもの(非圧痕性)に分けられます。
【圧痕性のむくみ】
① 静脈性浮腫:静脈が瘤のように盛り上がる静脈瘤等が原因のむくみ
② 炎症性浮腫:細菌感染等が原因で前述した腫れと同じような症状が出現するむくみ
【非圧痕性のむくみ】
① リンパ性浮腫:手術等によって、体液(リンパ液)が回収できなくなり患部から手や足の先に向かって生じるむくみ
② クインケ浮腫:皮膚や粘膜が急に腫れて数日で消失するむくみ
全身性浮腫
全身性浮腫はその名の通り身体の全体的な部分に生じるものなので、主に左右対称に出現しやすいという特徴があります。また全身性浮腫も圧痕性と非圧痕性に大別されています。
【圧痕性のむくみ】
圧痕性のものは尿検査を行い、尿タンパクが陽性か陰性かを調べて原因を探ります。
〈陽性の場合〉腎臓が機能低下(ネフローゼ症候群・腎不全・急性糸球体腎炎)を起こしている可能性があります。
〈陰性の場合〉栄養障害・肝硬変・心不全・クッシング症候群・月経前浮腫(女性のみ)・突発性浮腫の可能性が主なものになります。
【非圧痕性のむくみ】
甲状腺機能低下症などがあげられます。
全身性浮腫は、原因疾患が治ると改善することが特徴です。また、重力の影響を受けやすいため、寝たきりの場合は体幹背部で生じる事があるため、普段からの観察が必要です。
むくみ・腫れの注意すべき症状と受診のタイミング
むくみや腫れが出現している部位が明らかに変色していたり、血管が浮き出るような凹凸が認められる場合は受診される方が多くいらっしゃいます。その一方で、なんとなく見過ごされてしまいがちな症状もありますので、ここではむくみや腫れの注意すべき症状について解説していきます。
むくみと注意すべき症状
むくみの中には、早急に医療機関への受診が必要なむくみがあります。ここでは受診をした方が良いと思われるむくみと注意すべき症状について、「むくみ + その他の症状 = 疑われる状態」という形式で紹介していきます。
〇足のむくみ + 静脈に沿って血管拡張やこむら返り等 = 下肢静脈瘤の可能性があります。
〇むくみ + リンパ節周囲の治療歴(もしくはガンによる切除) = リンパ浮腫の可能性があります。
〇むくみ + 尿の泡立ち = ネフローゼ症候群の可能性があります。
〇むくみ + 血圧上昇や体重増加がみられる = 腎不全の可能性があります。
〇むくみ + 咳や息切れが見られる = 心不全の可能性がある。
〇むくみ + 赤い斑点や目や肌が黄色くなる(黄疸)、お腹の膨らみ(腹水) = 肝硬変の可能性がある。
上記はあくまで参考例になります。気になる症状がありましたら、ご自分で決めつけず、すぐに医療機関に受診し専門医に相談しましょう。
腫れと注意すべき症状
腫れの場合は、腫れが出現した時点で医療機関へ受診することをお勧めします。ここでは腫れと注意すべき症状について、むくみと同様に「腫れ + その他の症状 = 疑われる状態」という形式で紹介していきます。
〇腫れ + 患部の熱っぽさ(熱感)や赤み(発赤)、痛みがある = 蜂窩織炎の可能性があります。
〇腫れ + 症状が突然まぶたや口唇に出現した = 蕁麻疹の一種の可能性があります。
〇甲状腺(喉元周り)の腫れ + 「体が寒い」や体重増加 = 甲状腺機能低下症の可能性があります。
〇甲状腺(喉元周り)の腫れ + 「体が熱い」や体重減少 = 甲状腺機能亢進症の可能性があります。
特に蜂窩織炎は、身近な細菌が原因となり、場合によってはリンパ節に炎症が発生することもあります。引っかき傷等から菌が入りこまないよう、患部を清潔に保つことを心がけましょう。
脳梗塞後、むくみや腫れを生じやすい部位
脳梗塞後は「麻痺性浮腫」と言って、麻痺側の手足にむくみが発生しやすくなります。麻痺により筋力が低下、前述した筋肉のポンプ作用が上手に機能しないうえに、血流が滞りやすい体の末端(手足)は心臓へと血液を送り返す力が特に弱くなりがちな為、むくみやすくなるのです。ここでは手や足に生じやすいむくみと腫れについて解説していきます。
手に生じやすいむくみや腫れ
〇脳梗塞や外傷後に手全体が動かしにくかったり、腫れが続く場合は、肩手症候群の可能性があります。
〈肩手症候群の症状例〉麻痺側の肩は安静にしていても痛く、手全体(特に手の甲)が腫れており、動かすと痛い
〈生活への影響〉衣服の着脱の際に痛みを伴う、体を洗う時に痛むなど
〇腫れや痛み、皮膚変色、関節拘縮(関節の硬さ)、感覚障害などが見られる場合は、重度の神経障害疼痛の一つであるCRPS(複合性局所疼痛症候群)の可能性があります。
〈CRPSの症状例〉最初は腕全体が痛くてしびれがある、徐々に痛みとしびれの範囲は軽減したが、指先の痛みとしびれが残る
〈生活への影響〉手指へのしびれがある場合は、物をつかみにくい、お金などの小さいものを落としてしまう。感覚が鈍いため、適度な力ではなく力づくで持とうとするため経過とともに痛みやしびれが強くなる可能性がある
〇筋のポンプ作用低下によるむくみは、不動による影響が大きく、手の甲や指がぷっくりと膨らんでくるため、ボタンが留めにくい、箸が持ちにくいなどの生活への影響が生じるケースがあります。
〈生活への影響〉冬に手袋ができない、指の間がしっかりと洗えずに臭うなど
足に生じやすいむくみや腫れ
脳梗塞後、最もむくみやすい部位は足です。靴下のゴムが食い込んだり、膝から下がパンパンになるケースが多くみられます。これらも筋のポンプ作用低下によるものです。前述したように脳梗塞後遺症の麻痺により、筋肉が動かしづらくなる(動かす量が少なくなる)と、血液を心臓に押し上げる作用(筋ポンプ作用)が低下しやすくなります。
〈生活への影響〉歩行時に足が重く感じる、足の感覚が鈍くなりふらつきやすくなる、装具や靴が合わなくなる。
裏を返せば、この筋ポンプ作用を働かせていくことで改善を目指していく事も可能です。筋ポンプ作用を高め、更に筋力向上にも繋げていくことが重要です。むくみの改善に関する詳細は自己管理の項目にて後述します。
脳梗塞のむくみに対する治療方法とは?
むくみに悩みながらも、その状態に慣れてしまったりズボンを履いていて周囲が気付く事が遅れたり、さまざまな要因で放置されがちです。気付いた時が始める時。マッサージや運動、担当医への相談、むくみ外来の検討など、あなたの生活に取り込みやすいものからスタートしてみませんか?
徒手療法
むくみに対する徒手療法(※1)として、代表的なものに「リンパドレナージ」があります。ドレナージとは「排液」という意味で、むくみの水分を皮下から排液するものです。「強く揉まない」「末端から心臓に向かって実施する」という注意点を必ず守って行います。擦るだけでもリンパ液は流れますので、強く揉んで血栓を作らないよう充分注意しましょう。このような徒手療法だけではなく、積極的に普段から手足を動かし、リハビリへと繋げていきましょう。御自身に合った身体の使い方を体得したり、生活動作の中に自然ととけこむよう「ついで体操」のような方法で無理なく刺激を入れていきましょう。
※1:徒手療法とは体の組織(リンパ・関節など)に対して、手技によるアプローチを行うこと
装具療法
むくみに対する療法として、患部の「圧迫」と「挙上」という方法が重要です。
患部を「圧迫」「挙上」する方法として、弾性包帯を下から上に向かって巻き上げる方法や、医療用弾性ストッキング(靴下)を履く療法があります。イラストのように外側から圧力をかけることで、血液が血管内に溜まらないようにする狙いがあります。
◇弾性包帯の活用
弾性包帯を下から上の向かって巻き上げる(挙上)方法によって、ある程度の圧迫(加圧)を常にかけ、下に溜まったむくみを上方へと押し上げる効果を狙います。
◇医療用弾性ストッキングの活用
医療用弾性ストッキングは通常のストッキングとは異なり、むくみ防止のために圧迫圧が調整した特殊な構造になっております。
上記の弾性包帯のような効果をストッキングを履くだけで得られることが特徴です。
いずれも主治医と慎重に検討した上で、適切に利用・活用をしていきましょう。
最近は大型電気店でも「メドマー」と呼ばれる血行促進機器が販売されており、デイサービスで導入されている所もあります。こちらも使用の可否を主治医に必ず確認するようにしましょう。使用される場合は、空気圧設定を弱めのものから始めていきましょう。また、外出時の靴は、むくみの度合いで調節出来るように、マジックテープでベルトの長さを調節出来るタイプを選びましょう。左右で違うサイズの靴を選ぶ事も可能なメーカーの商品を選択することで、長く御愛用頂けることでしょう。
自己管理
普段の生活から筋ポンプ作用を働かせていきましょう。ポイントは「ふくらはぎ」です。ふくらはぎを動かすと、血流だけではなくリンパ液の流れも促してくれるのです。ふくらはぎが「第二の心臓」と呼ばれる所以でもあります。代表的な運動としては、足首曲げ伸ばし運動があります。イスに座ったまま出来る運動なのでテレビを見ながらでもOKです。腰に負担がかからない方であれば、同じ位の高さのイスを用意して足台として使い、足をのせたまま足首曲げ伸ばし運動をする方法もあります。睡眠時に、足を上げて眠ることも非常に有効です。手のむくみも同様で、睡眠時に心臓より高い位置になるよう、腕の下にバスタオル等をくるくる巻いた物を入れて補高する方法もあります。もちろん、日中に指をこまめに動かしたり、ハンドクリームを塗りながらマッサージをしたり、お湯で温めてみる方法も気持ちよく、リラックス効果も期待出来ますのでお勧めです。
脳梗塞のむくみ(浮腫)にお悩みの方は、専門家に相談しよう
腫れの場合は、何の病気であれできるだけ早い病院への受診の必要性を感じていただけたと思います。また、むくみの場合であっても、筋肉のポンプ作用の低下以外のむくみの裏には大きな病気が隠れている可能性を知って頂けたと思いますので、分からないときは自分で判断せず受診をお勧めします。
筋肉のポンプ作用の低下によるむくみの場合、健常者に比べ特に脳梗塞の方では、自己管理による運動や散歩だけでは、正しい筋肉が働かずに足のむくみがなかなか軽減しない方がおられます。麻痺により限られた筋肉しか働いていない、あるいは働き方が正しくない、そもそも働いていないのが原因の一つと考えられます。そういった場合は、自分一人では改善は難しいため、リハビリや運動の専門家への相談をお勧めします。当施設でも脳梗塞以外の一般の方々の治療も行っておりますので、気軽にお問い合わせてください。
この記事の監修者
加藤 隆三
理学療法士
2012年に常葉学園静岡リハビリテーション専門学校を卒業し、理学療法士免許を取得。資格取得後は整形外科やスポーツ現場、介護サービスにて様々な分野のリハビリテーションに携わる。介護現場ではお客様の生きがいや生活の質を高めることをコンセプトとした生活リハビリの業務に従事する。2018年から脳梗塞リハビリBOT静岡の所長に着任、脳梗塞の後遺症に悩まれている方のリハビリやご家族の支援も行う。また地域リハビリテーションにも力を入れており、介護予防教室を50回以上開催し、自立支援型ケア会議に参加している。その他、福祉用具専門相談員に対する講演や大学教授との共同研究等を行っている。地域の皆さんがいつまでも生きがいを持って生活できるよう、最善のリハビリを提供することを心がけている。