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2023.02.01 脳梗塞とは
脳梗塞の予防を理学療法士がわかりやすく解説
この記事の監修者
保本 夢土
理学療法士
目次
コロナ感染の影響で外出やジムでの運動などが社会的に制限されている昨今において、以前よりも運動量が減ってきている方が多いように感じます。それに伴い、生活習慣病も今後増えることが懸念されます。脳卒中(脳出血・脳梗塞など)の予防にも、もちろん生活習慣の改善が大切となってきます。今回は、脳卒中の中でも最近増加傾向にある脳梗塞について、その原因と症状を踏まえながら生活の中でできる予防について紹介させて頂きます。また、運動(有酸素運動、筋力トレーニング)を専門的な視点から紹介させて頂きますので、生活習慣病と指摘され脳梗塞を予防したい方、再発を予防したい方はご参考にして頂けると嬉しいです。
脳梗塞とは
まずは脳卒中の主要な病態のひとつである脳梗塞について、少し掘り下げながら理解を深めていきましょう。脳梗塞とは、脳の血管が狭くなったり詰まったりすることで血流が途絶え、周囲の脳細胞や組織が壊死、つまり死んでしまう事を指します。
脳梗塞は主に以下の3つのタイプに分類され、それぞれのタイプには特徴があります。
ラクナ梗塞 | 脳の深部にある細い血管が詰まることで生じます。高齢者に多く、多発しなければ症状が軽いことも多いですが、手足の運動麻痺が出やすい傾向があります。 |
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アテローム血栓性脳梗塞 | 動脈硬化によって生じた血栓(血の塊)により脳の深部にある血管が詰まることで生じます。発症時は症状が軽くても悪化していく可能性があります。 |
心原性脳塞栓症 | 心臓内にできた血栓が脳内で詰まることで生じます。心疾患を持っていると発症しやすいと言われており、重度の麻痺症状や重篤な意識障害をきたすことも少なくありません。 |
もちろん脳の血管が詰まる部位によって症状は様々ですが、一般的にはラクナ梗塞は比較的症状が軽く済むケースも多く、一方でアテローム血栓性脳梗塞や心原生脳塞栓症は症状が進行する可能性が高いため重度の麻痺症状や重篤な意識障害を生じやすいと言われています。
その他にも出血性脳梗塞というものがあります。脳の血管を閉塞させていた血栓は、時に溶けて再び流れ出すことがあります。脳梗塞がすでに生じている部分で再び血流が戻ると、今度はその周囲で出血を生じさせてしまいます。これを出血性脳梗塞と言います。心原性脳塞栓症で比較的よく認められます。
脳梗塞の原因とは
そもそも、脳梗塞はどうして生じてしまうのでしょうか。原因としては以下の要素が考えられています。
動脈硬化 | 動脈の血管の内壁に悪玉コレステロールが溜まり、こぶ(プラーク)ができます。このコブにより血管の内壁が厚くなり血液の通り道が狭くなり、血管が硬くなった状態を動脈硬化と言います。血管の中が狭くなることで血栓が出来やすくなります。 |
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心疾患 | 心房細動や弁膜症といった疾患は心原性脳塞栓症を引き起こしやすくなります。 |
生活習慣病 | 高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症、高コレステロール血症)等は動脈硬化やドロドロ血の原因となります。 |
脳梗塞の原因の一番は動脈硬化です。動脈硬化についてもう少し詳しく説明します。
動脈の血管の内側の壁(以下、内壁、ないへき)が何かの原因(加齢、生活習慣病など)で傷つくと、悪玉コレステロールが溜まり、こぶ(以下、プラーク)ができます。このプラークにより血液の通り道が狭くなり、プラークより先は血流が少なくなります。
このように、血管が厚くなったり硬くなったりして、本来の動脈の働きができない状態の総称を「動脈硬化」と言います。動脈硬化が進行すると、プラークが何かの刺激で破れます。傷を修復しようと血小板でかさぶたを作ろうとします。これが血栓(血の塊)です。血栓により完全に動脈がふさがると、それより先へは血液が届かなくなってしまいます。これが脳の動脈で起こると脳梗塞、心臓で起こると心筋梗塞となります。
また、上述した動脈の内壁が傷つく原因には、①加齢による動脈の老化(血管年齢の老化とも言われます)、②生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満など)による動脈への刺激があります。
加齢とともに動脈が傷ついてしまい、血管年齢の老化が起こるのは自然な事です。血管年齢の老化をさらに悪化させるのが、生活習慣病になります。実際に、当センターを利用される脳梗塞のお客様の多くが、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の病歴があります。そのため、生活習慣病の予防および改善(生活習慣の見直し)が、動脈硬化および脳梗塞の予防にとても大切となります。
また、動脈硬化自体は症状として現れず、血栓により脳梗塞などになって初めて体の支障に気づくことになりますので、日頃から動脈硬化の予防を意識した生活を送ることが大切となります。
脳梗塞を予防する方法
脳梗塞を予防するポイントは、動脈硬化や心疾患、生活習慣病をいかに防ぐかです。以下では、その具体的な方法について触れていきたいと思います。
不整脈の治療
脳梗塞の原因として前述した心房細動は不整脈のひとつであり、不整脈を既往に持つ方は脳梗塞の発症率が健常者の2~6倍と言われています※1。また、弁膜症は高確率で心房細動を合併すると言われていますが、弁膜症に心房細動を合併すると脳梗塞発症リスクがなんと10倍にも跳ね上がります※2。不整脈は脳梗塞の予防を考える上で優先して行ないたい治療のひとつになります。不整脈の治療方法は以下のようなものがあります。
抗不整脈薬 | 症状が軽度であれば服薬による治療を行います。 |
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ペースメーカー | 一定レベルの心拍を保つ事を目的として使用されます。 |
カテーテルアブレーション | 心臓の異常な電気回路を遮断し、不整脈の原因を取り除きます。 |
植込み型除細動器 | 突発的な心室細動が起きた時に対応できるよう使用されます。 |
生活習慣病の予防と改善
生活習慣病とは、食習慣、運動習慣、ストレス、喫煙、飲酒等の生活習慣の乱れが原因で起こる病気の総称であり、高血圧、高血糖・糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症、高脂血症)などが含まれます。先ほど、生活習慣病が動脈硬化に悪影響を与えることは簡単に説明しましたが、各々の病気が動脈硬化に与える悪影響が以下の表となります。
生活習慣病による動脈硬化への悪影響
生活習慣病 | 動脈への悪影響 | |
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高血圧 | 血圧が上昇すると、血液の圧力で血管壁がもろくなります。 その結果、悪玉コレステロールが溜まりやすくなります。 |
|
高血圧・糖尿病 | 血糖値が高い状態では、血管が動脈硬化を防ごうとする働きが失われます。 また悪玉コレステロールが参加することで、動脈硬化を進行させます。 |
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脂質異常症 | 高コレステロール血症 | 悪玉コレステロールが増えすぎると、血管壁を傷つけます。 さらに、その中に入り込んでプラークを形成します。 |
高脂血症 | 中性脂肪は、それ自体が動脈硬化を進めることはありませんが、悪玉コレステロールを小型化します。 小さくなった分、血管壁に入りやすくなります。 |
生活習慣の見直し
食習慣、運動習慣、ストレス、喫煙、飲酒等の生活習慣の乱れによる動脈硬化への悪影響が以下の表となります。悪影響の内容を知って頂き、生活習慣の見直しの必要性を感じて頂きたいです。
生活習慣の乱れによる動脈硬化への悪影響
生活習慣の乱れ | 動脈への悪影響 |
---|---|
肥満 | 内臓脂肪が多くなると、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が増加し、善玉コレステロールが減少します。 |
喫煙 | たばこを吸うことで、悪玉コレステロールが増えはしませんが、 血管壁に入り込みやすくなります。 また、善玉コレステロールが減ってしまいます。 |
ストレス | ストレスを感じると、ストレスホルモンが分泌され、血管や血液がダメージを受け、 悪玉コレステロール値や血糖値を上昇させます。 結果として血栓ができやすくなります。 また、血圧を上げてしまうので、血管壁に負担がかかります。 |
運動不足 | 血液の流れが悪くなったり、筋肉量が減って血管への刺激が少なくなったりして血管の内側の細胞の衰え(血管の老化)に繋がります。 |
生活習慣病や生活習慣の乱れが動脈に与える影響は様々ですが、
改善策として大切なのは、以下3つです。
・血管を健康な状態に保つこと=血管年齢を若く保つこと
・悪玉(LDL)コレステロールを増やさないこと
・善玉(HDL)コレステロールを増やすこと
善玉コレステロールは、増えすぎた悪玉コレステロールを回収し、さらに血管の内壁にたまった悪玉コレステロールをはがして、肝臓へ戻す働きがあります。悪玉コレステロールが動脈硬化を促進するのに対して、善玉コレステロールは抑制する働きがあります。そのため、善玉コレステロールが減ると、悪玉コレステロールの働きが活発になり動脈硬化を引き起こす可能性が高くなってしまいます。
以上のように、生活習慣病になった後から動脈硬化のリスクが上がるのではなく、生活習慣の乱れが始まった段階から動脈硬化のリスクが上がるということです。つまり、『生活習慣病と診断されてないから安心だ!』ではなく、生活習慣が乱れることで知らない間に脳梗塞になる可能性があるということです。実際、当センターでも生活習慣病の病歴(高血圧、糖尿病など)はないのに脳梗塞を発症してしまった方が多くおられます(食習慣の乱れ、過剰な飲酒、仕事によるストレスなど)。そのため、今日から生活習慣を見直してみてはどうでしょうか。
では、それぞれの生活習慣の具体的な見直し方について触れていきたいと思います。
食習慣の見直し
生活習慣病は、乱れた食習慣やそれによる肥満が直接の原因となっているケースも少なくありません。食習慣の乱れとして注意しなければいけないのは、「朝食を抜く」「間食や夜食を食べる」「外食が多い」「揚げ物や味付けが濃い食事」となります。
(見直し方)
・3食食べる
・嗜好品と言われるお菓子などの悪影響を知り、間食や夜食を極力減らす
・外食など好きな物ばかりではなく、バランス良い食事を心がける
・揚げ物や味付けが濃い食事の悪影響を知る
・後述する「脳梗塞を予防する食べ物、飲み物」など体に良いものを摂取する
日常的に揚げ物のような脂肪分の高い食事を続けていれば高脂血症になるリスクは高まりますし、糖質を過剰に摂取していれば糖尿病発症率の上昇に直結します。高脂血症患者と糖尿病患者の脳梗塞発症率はそれぞれ健康な方の2~4倍※3、つまり、乱れた食習慣を正すことが出来ればそれだけでも脳卒中(脳梗塞等)発症リスクは大幅に軽減させられるという訳です。具体的に言えば、血液中のコレステロールや中性脂肪の値が高くなりすぎないように血液をサラサラな状態に保つ食べ物や飲み物を積極的に摂るようにする、という事が重要です。また、脳細胞の酸化は脳梗塞の前駆症状である一過性脳虚血発作(TIA)と関係性があると考えられており、抗酸化作用のある食べ物や飲み物の摂取も脳神経細胞の保護に繋がるため脳梗塞予防に効果的と考えられています。
脳梗塞を予防する食べ物
動脈硬化および脳梗塞の予防に効果が期待できる食べ物は以下のようなものがあります。
・玉ねぎ
血栓を出来にくくしてくれます。
・鯖
含まれるDHAが血管の弾力性を高め、EPA(エイコサペンタエン酸)が中性脂肪を下げてくれます。
・きのこ類
豊富な食物繊維がコレステロールや血糖値を下げてくれます。しいたけは、善玉コレステロールを増やしながら悪玉コレステロールを減らすという理想的な食べ物と言え、血圧を下げる効果もあります。また、エリンギは食物繊維が特に豊富でむくみ予防にもいいと言われます。
脳梗塞を予防する飲み物
続いて動脈硬化および脳梗塞の予防に効果が期待できる飲み物です。最近では、緑茶など下記以外にも動脈硬化の予防に効果的な飲み物がたくさんありますので、これをきっかけに色々調べて頂くと嬉しいです。
・コーヒー
ポリフェノールが悪玉コレステロールの酸化を防いでくれます。
・トマトジュース
豊富に含まれるリコピンは、善玉コレステロールを増やす効果があります。また、強い抗酸化作用があるので、脳梗塞の予防になります。
・水
水分不足は脱水を招き血液濃度を上げドロドロな血液の原因となるので、水のこまめな摂取は必須です。また、脳梗塞は安静にしている時間帯(睡眠中、朝起床時2時間以内)に発症しやすいと言われています。その理由として、血圧の日内変動(1日の中での変動)が影響しており、夜間や明け方は血圧が下がるため、血栓が形成されやすいと考えられています。就寝前や明け方に水分を補給するようにしましょう。
禁煙・過度な飲酒を控える
喫煙や過度な飲酒は、脳梗塞発症リスクに大きく影響します。喫煙は血管を痛め、動脈硬化を進行させるため非喫煙者に比べ喫煙者は脳梗塞死亡リスクが2~3倍になると言われています※4。
一方、飲酒については少量であれば血管拡張作用により脳梗塞予防に効果があるといった研究も存在します※5が、アルコールは血圧上昇効果があり1日平均3合(540ml)以上お酒を飲む人は脳卒中(主に脳出血)の発症率が1.5倍前後となります※4。したがって出血性の脳梗塞に関しては脳出血同様、発症リスクが高くなると推察されます。
ちなみに、禁煙4~5年程度で脳梗塞になる危険リスクは非喫煙者と同等程度になると言った報告があります※4ので、喫煙者であるならばすぐにでも禁煙を始めるべきではないでしょうか。
飲酒に関しては1日1合(180ml)未満の飲酒であれば脳卒中のリスクには繋がらず、むしろ予防的な効果が期待できます。嗜好品のタバコとお酒、付き合い方次第で大病の原因になり得る事は皆さん承知の事だとは思いますが、くれぐれも過度な喫煙と飲酒にはお気を付けください。
ストレスを発散する
ストレスは血管の大敵であり、すべての病気の原因とも言われ、もちろん脳梗塞の原因にもなります。その理由は、上述したように血圧や血糖値の上昇に影響を与えるからに他なりません。過度なストレスを受け続けていると自律神経系の働きが乱れてしまい、その結果血圧や血糖値の上昇に繋がっていきます。脳梗塞の予防には、日頃からストレスを溜めない工夫というものも大切になってきます。以下で簡単なストレス解消法をいくつか紹介させて頂きます。
・運動習慣を作る
運動すると、ドーパミンなど幸福感を与える物質が出ることでストレスと戦ってくれます。これらは気分も調整し、希望に満ちた気持ちをもたらしてくれると言われています。
・趣味活動を行う
ゴルフやジョギングなどの運動型の趣味は上記した運動習慣と同じ効果が起こります。趣味には運動型以外にも、会話などの親交型、ゲームや美味しいものを食べる娯楽型、音楽を聞いたり、絵書き、庭いじりなどの創作型、旅行やカラオケなどの転換型などがあります。内容ではなく、その方にとって心地よい空間や時間は脳にとって快刺激となり、血管を広げる効果などが期待できます。
・ 規則正しい生活リズム
決まった時間に起き、決まった時間に食事を摂り、決まった時間に寝る。規則正しい生活リズムは自律神経系の働きを整えてくれます。
・適度に睡眠を摂る
睡眠不足は脳の働きを鈍らせます。ミスが増えてイライラの元にも繋がりやすいので、可能であれば1日6時間半~7時間半の睡眠時間を確保しましょう。
・人とたくさん話す
人と話し、思っていることを口にするだけでもストレスの蓄積を減らすことが出来ます。出来るだけたくさんの人と会話をしましょう。
適度な運動をする
脳梗塞を予防する上で、適度な運動は必須です。端的に言えば、適度な運動は前述した生活習慣病の予防にとても効果的であると考えられているからです。ではなぜ、適度な運動が生活習慣病の予防に繋がるのでしょうか。具体的には以下の3つの効果があると言われています。
・血管拡張効果・血圧の低下
中強度の運動をすると、心臓がたくさん働くことで血流が増加し、血管壁から一酸化窒素が分泌されます。 この一酸化窒素により筋肉がゆるんで血管が広がります。 血管が広がると結果的に血圧が下がります。
・血液凝固性の低下
血液が固まりやすいと血栓ができやすくなり、脳梗塞の原因となります。運動した後に、交感神経の働きが落ち着き、副交感神経が優位になることでリラックス状態になり、血液が固まりにくくなります。その結果、血栓ができにくくなります。
・動脈硬化の予防
運動をすると、善玉コレステロールが血液中に増えます。善玉コレステロールは血管壁にたまった悪玉コレステロールを回収して、動脈硬化および血栓を予防してくれます。
では、どのような運動が脳梗塞や生活習慣病の予防になるのか、少し掘り下げてみたいと思います。
脳梗塞を予防する運動
厚生労働省による「健康作りのための身体活動基準」によれば、健康のためには18~64歳の方は中強度以上の身体活動(少し汗ばむ、息が切れる程度の運動)を1日1時間、そのうち汗をかくような運動を週に1時間程度行うことが推奨されています。ちなみにここで指す中強度以上の身体活動というのは、一般的に言う「有酸素運動」と捉えて頂いて問題ありません。
一方、65歳以上の方は強度を問わず1日40分以上の運動を、とのことです。毎日運動が出来れば理想ですが、運動習慣がない人にとっては中々ハードルが高いかも知れません。一方、脳卒中リスクのみに着目すると、南オーストラリア大学健康科学部の研究で週4日以上中強度の運動を行うことで脳卒中発症率が低下するという結果が出ているそうです※6。
上記を踏まえると、運動は出来るだけ週に4日以上、可能なら毎日続けるのが理想で、無理のない範囲で少し汗をかくような有酸素運動を取り入れながら行なうのが脳梗塞予防に効果的な適度な運動と言えるようですね。
有酸素運動
有酸素運動を続けることのメリットは、なんといっても動脈硬化の抑制効果です。動脈硬化の進行予防はもちろんですが、硬化し始めた動脈に関しても継続的に有酸素運動を行うことで改善が期待できると言われています。
・ウォーキング
・ジョギング
・水泳
有酸素運動は、上記のような運動を少し汗ばむ、もしくは息が切れる程度の負荷を目安として行うことを指します。動脈硬化の抑制効果を最も高めるためには、少し大変ではありますがこれらを週に4~5日、30~60分程度行ないましょう。
もちろん、相応の時間や頻度を確保できないという方もいらっしゃると思います。買い物や仕事の通勤で意識的にウォーキングをするなど、ちょっとした運動習慣を生活の中に組み込むだけでも一定の効果は見込めますので、どうしても運動を続けるのが大変だったり、時間が取れないという方はこういった方法で体を動かす習慣をつけてはいかがでしょうか。
筋力トレーニング
脳梗塞をはじめとする脳卒中の予防に有酸素運動が効果的という話は聞いたことがある方も多いかと思いますが、筋力トレーニング(以下筋トレ)の有用性についてはあまり知られていないかも知れません。実は筋トレも脳卒中の予防に非常に有用な運動となります。
筋力トレーニングの効果として着目すべきは血圧を低下させてくれること。筋トレは血圧が上がりそうなイメージですが、適度な負荷量で継続的に行うことで高血圧の改善が見込めます。2021年の欧州予防心臓病学会では、レジスタンストレーニング、いわゆる筋トレを適切に続けることで血圧を低下させられるとの研究結果も発表されています※7。
簡単に行える具体的な筋トレとしては以下のようなものがありますので参考にされてください。
・スクワット(10~20回を2~3セット)
・椅子に座ってのもも上げ運動(20~30回を2~3セット)
・膝をつけたまま行なう腕立て伏せ(10回~20回を2~3セット)
回数、セット数はあくまで目安です。ご自身の感覚として「少し疲れる」程度の回数が丁度良い負荷量ですので、実際に行う中で調節してみてください(翌日に疲労感が強く残る、どこかに痛みが出ると言った場合は負荷が強すぎる可能性が高いです)。頻度については少なくとも週に2~3回以上は続けられるよう頑張りましょう。
趣味活動・日課
食生活や運動に意識を向けることは脳梗塞の予防に欠かせないことですが、それと同じくらい、「心地よく毎日を過ごすための趣味活動や日課」も大切な要素のひとつになります。ストレスを溜めずに生活するためには、やはり毎日が楽しいと思えることがなにより必要です。特に運動をして体を動かす趣味は、脳にとっても体にとっても良い影響ばかりです。あまり趣味がないという方は是非、興味を持てる趣味を探してみてください。
普段あまり身体を動かさないという方であれば映画を観に行ったり、お花を育てたり、近所を散歩したり…まずは簡単なことでも構いません。日課として趣味を楽しむことで生活にリズムが生まれ、結果として規則正しく健康的な日常生活を送りやすくなるでしょう。
運動を実施する上でのリスク
脳梗塞の予防のために運動を行って、逆に体を壊してしまっては元も子もありません。運動を行う前にリスクや配慮点について理解を深めておきましょう。
まず、特に配慮が必要となるのは以下のような方です。
・血圧が低い
無理に運動を行うことで貧血等の不調が現れる可能性があります。
・血圧が高い
負荷を上げ過ぎると逆に脳出血等のリスクにつながる可能性があります。
・心臓に病気がある
負荷を上げ過ぎると動悸や息苦しさ等が生じる可能性があります。
これらのケースに限らず、体調があまり優れない場合は無理に運動を行わずに様子を見ましょう。
また、体調に問題がない場合でも以下の点を頭の片隅に置きながら運動を行って頂ければと思います。
・有酸素運動、筋力トレーニング共に始めは軽い負荷から
・運動時の血圧が収縮期200mmHg、拡張期105mmHgを持続的に超えないように
・筋力トレーニングでは息を止めないように
おすすめの運動器具
最後に、運動を行う際に使い勝手の良いおすすめの運動器具について簡単にご紹介させて頂きます。
・エルゴメーター
いわゆるウォーキングマシンです。歩行は非常に有用な有酸素運動ですので、外に出るのが面倒で中々歩く気にならないという方には向いているかもしれません。
・エルゴバイク
心肺機能と足の筋力強化に役立つエルゴバイクは、足の関節を大きく動かくため膝や股関節、腰痛予防にも役立ち一石二鳥です。
・重錘ベルト
手首や足首につける重りです。簡単な運動も重錘ベルトを着けて行なうことで負荷の増減が可能になるので便利です。
・セラバンド
リハビリ用のゴムバンドです。ゴムの弾力を抵抗としながら運動を行うことで適度な負荷をかけることが出来ます。比較的安価で購入できるのでおすすめです。
より自分に合った予防方法を知りたい方は、専門家に相談しましょう
今回の記事では脳梗塞の原因を踏まえた予防方法をご紹介しました。繰り返しになりますが、脳梗塞を予防するためには「生活習慣病」「動脈硬化」「心疾患」を防ぐこと、適切な治療を受けることが重要になります。しかし、ご紹介した予防方法をすべて同時に始めることはなかなか難しいと思います。まずは食習慣の見直しから始めても良いですし、趣味を再開することから始めても良いと思います。また「ご自身に合った予防方法から始めたい」という方は、一度専門家の方に相談してみてください。少しずつでも生活習慣を見直すことで脳梗塞の発生リスクを抑えていきましょう。
(参考・引用)
※1、2
新 博次. 不整脈と脳血管障害. 日医大誌 1999 第 66 巻 第 5
※3
糖尿病ネットワーク. https://dm-net.co.jp/calendar/2018/028248.php
大櫛 陽一 他. 脳卒中患者での高脂血症による臨床指標への影響.脳卒中 32:242–253,2010
※4
くまもと禁煙推進フォーラム. https://square.umin.ac.jp/nosmoke/material/TS_stroke.pdf
※5
がん対策研究所 予防関連プロジェクト.飲酒と脳卒中発症の関連性について. https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/261.html
※6
日本生活習慣予防協会. https://seikatsusyukanbyo.com/calendar/2013/002370.php
※7
個人に合わせた予防と運動処方動脈性高血圧症の治療: 欧州予防心臓病学会 (EAPC) および高血圧に関する ESC 評議会からのコンセンサス文書、欧州予防心臓病学会誌、第 29 巻、第 1 号、2022 年 1 月、ページ 205–215、https://doi .org/10.1093/eurjpc/zwaa141
ライター
寺澤 慶大
理学療法士
この記事の監修者
保本 夢土
理学療法士
経歴:2008年に鈴鹿医療科学大学 理学療法学科を卒業し、理学療法士国家資格を取得。同年~2018年まで静岡県内の療養期の病院、介護老人保健施設に勤務し、慢性期の患者様に携わる。その中で脳血管障害に対する治療を中心に学び、脳卒中患者様を専門に携わりたいという思いから、2019年に脳梗塞リハビリBOT静岡に勤務。運動麻痺の改善に最善を尽くすこと、お客様の身体および精神的な悩みを共有し、少しでも表情が明るくなるよう心がけています。
急性期脳神経外科病院での10年間の臨床経験をはじめ、デイケア、デイサービス等の介護分野での経験や自費診療、スポーツトレーナー活動など幅広い分野でのリハビリ業務を経験。現在は整形外科クリニックで運動器疾患に悩む患者様のリハビリに携わっている。「病名に捉われず、その人の本質的な運動機能を改善するリハビリを提供する」がモットー。理学療法士としての仕事は「趣味」であり「天職」。多角的な視野や思考を大切に考えており、常に新しい知見や考え方を取り入れながら日々理学療法士としての知識・技術を高めるべく研鑽を続けている。また、世の中の健康リテラシーを高めるためWebライターとしても活動。理学療法士としての知識や経験を元に、医療や介護に関する情報を発信している。
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