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2023.11.28 お知らせ
嚥下障害とは?原因と症状を分かりやすく解説
この記事の監修者
加藤 隆三
理学療法士
私たち人間は、生きていくために食べ物を食べ、飲み物を飲み込むことを日常的に行っています。この飲み込む一連の動作を「嚥下」といいますが、加齢による機能低下や脳梗塞やパーキンソン病といった神経疾患などが原因で嚥下動作を遂行する機能が低下してしまい、日常生活に支障をきたすことがあります。人が生きる上で「食」は栄養摂取という観点から必要不可欠であり、生活に豊かさを与える楽しみでもあります。嚥下障害によって「食」の機能や楽しみが損なわれることで、生活の質を大きく落としてしまいかねません。そこでこの記事では、嚥下のしくみから嚥下障害の症状、そして原因までを解説し、その上で高齢者に多い「誤嚥性肺炎」について予防のポイントもまじえて解説していきます。
目次
・嚥下障害とは
・摂食嚥下の仕組み
・嚥下障害の症状
・嚥下障害の原因
・誤嚥性肺炎
・食事を楽しむためにも嚥下障害の予防・対策を
嚥下障害とは
食べ物を口に運んで飲みこみ、食道を通って胃へ送られます。この一連の流れを「嚥下」と呼びます。嚥下障害とは「食べ物を飲み込むことの障害」です。実際には飲み込む瞬間だけでなく、食べ物を認知することが難しい場合や、口に運ぶことができない等の症状も嚥下障害の一部となります。嚥下障害による問題は「脱水・栄養失調」「誤嚥や肺炎」「食べる楽しみの喪失」を引き起こすことです。嚥下障害がおこると、栄養失調→肺炎などの症状→体力低下→さらなる嚥下機能低下といった悪循環を引き起こします。
摂食嚥下の仕組み
食べる一連の流れは「先行期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」の5つの段階とされています。それぞれの段階を確認していきましょう。
①先行期:食べ物を認識する、食べ物を口へ運ぶ
視覚や嗅覚などの五感が関わります。また食べ物を見て味やにおいを想像しています。つまり、食べる前に必要な情報を処理したり、動作する段階です。具体的には、食べ物に合った口の形をつくることや、口元へ運ぶ動作をおこないます。
②準備期:食べ物を噛む
準備期では口の中に入った食べ物を噛んで飲み込みやすい形(食塊)にする段階です。食塊は唾液と混ぜながら作るため、口腔内が乾燥している場合は、食塊が作りにくい要因となります。
③口腔期:食塊を喉へ送り込む
口腔期では食塊を喉へ送り込む段階です。食塊をスムーズに送り込むためには舌を口蓋(口の天井)に充分密着している必要があります。舌の筋力が弱い場合うまく送り込めない状態となります。
④咽頭期:飲み込んで食道へ送り込む
「飲み込む」「ゴクンと飲む」段階で、嚥下反射と呼ばれます。嚥下反射が生じると、食塊を飲み込んで食道へ送り込みます。嚥下反射は0.5秒と短いのですが、様々な機能が働くのです。すなわち、鼻への逆流を防ぎ、気管への流入を防いで、食塊が食道へスムーズに送り込まれる働きがあります。
⑤食道期:食道から胃へ送る
食道期は、食道まで送られてきた食塊を胃へ送る段階となります。送り込むときには食塊が逆流しないように胃へ送られていきます。胃へ到達後も、食道は閉じて逆流を防ぎます。
嚥下障害の症状
嚥下障害を患った場合、実際にどのような症状がみられるのでしょうか。代表的な症状と摂食嚥下の流れにおいて、どの段階で問題が生じているか、照らし合わせながら解説していきます。
①食事中よくむせる
食塊がうまく作れていない、喉への送り込みが不十分、嚥下反射で問題が生じている可能性が考えられます。準備期、口腔期、咽頭期いずれかまたは複数で問題が生じています。
②水分でよくむせる
喉へ送り込む前にむせる場合や嚥下の際にむせる場合と考えられるので、口腔期、咽頭期に問題を生じている可能性があります。
③やわらかいものばかりを好んで食べる
しっかりと噛むことが難しいこと、喉へ送り込むことが難しい可能性があります。準備期や口腔期の問題が疑われます。
④食後の声がガラガラになる
これは湿性嗄声と言われる症状で、食べ物が嚥下後にも喉に残っている場合に生じます。咽頭期の問題が疑われます。
⑤飲んだ後も口に残る
十分に食べ物をのどへ送り込めていない可能性があります。主に準備期、口腔期の問題が考えられます。
⑥夜間寝ている間にむせることがある
唾液でむせる場合は、喉の感覚が低下している可能性が考えられます。咽頭期の障害が考えられます。
⑦薬が飲みにくくなった
服薬するときは、錠剤を水分と一緒に飲み込みますが、嚥下機能が低下すると錠剤だけが口やのどに残ってしまい、薬が飲みこみにくくなった状態となります。口腔期、咽頭期の影響が大きいです。
⑧痰が絡むようになった
食事中や食後に痰が絡む様子がみられる場合は、誤嚥が疑われる所見です。痰絡み=気管または肺で炎症を引き起こしている状態ですので、医療機関への相談を行いましょう。
⑨食事時間が長くなった 疲れやすくなった
嚥下に関わる筋力が低下することが要因で、食べ物を十分に飲めなくなります。十分に飲めなくなると、一口に対して何度も飲み込むことが必要です。そのため、何度も力いっぱい努力的に飲み込むことにつながり、食事時間の延長や疲れやすくなってしまうのです。
⑩体重が減少してしまう。
⑨にも関係しますが、疲れやすくなってしまうと、食事への意欲も低下してしまい、摂取できる食事量も減ってしまいます。
嚥下障害の原因
嚥下障害は疾患のうちの一つの症状としてみられるものです。原因となる疾患はさまざまで、摂食嚥下のしくみに関わる器官(五感や口や舌、喉、食道など)や神経系・筋系などに問題が発生したときにみられます。嚥下障害の原因は「器質的な原因」「機能的な原因」「心理的な原因」の3つに分類されています。それぞれについてみていきましょう。
器質的な原因
器質的な原因とは、嚥下に関わる器官そのものの異常によって生じる問題です。つまり、口や舌、歯、のど、食道に問題が生じる状態を指します。炎症は痛みによって、筋肉の動きが不良となります。腫瘍は炎症による痛みと組織が大きくなることで、器官の動きを阻害します。また、手術によって組織を取り除いた場合は、組織量が減少することで筋肉の厚みが薄くなることや、筋力低下によって嚥下障害を来しやすくなります。
【口腔・咽頭の疾患】
【食道の疾患】
・食道炎、潰瘍
・食道ウェブ(食道上部に形成された薄い膜、嚥下困難を引き起こす)
・食道狭窄
・食道裂孔ヘルニア(胃の一部が胸腔内に飛び出してしまい、胃液が逆流してしまう)
・頚椎症 など
機能的な原因
機能的な原因とは、嚥下に関わる筋肉が十分に動かないことによって引き起こされます。一般的に、体を動かす場合は脳から指令が出され、さまざまな経路をたどって筋肉を動かします(大まかな流れとしては「脳」→「神経」→「筋肉や器官」)。嚥下に関しても同様で、脳からの指令で、それぞれの器官が動くのです。しかし、機能的な原因が生じた場合は、脳からの指令が不十分(脳自体の問題)なために筋力のパフォーマンスが低下します。つまり、脳から指令がだされても、神経が指令をうまく伝達できない、筋肉自体がうまく動かない状態に陥り、嚥下障害をきたします。
また、機能的な原因の中で、最も多い疾患が脳血管障害です。脳血管障害は「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」が該当し、これらは高血圧が原因となることが多いですので、気を付けましょう。
【口腔・咽頭の疾患】
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【食道の疾患】
・脳幹部病変
・アカラジア
・全身性エリテマトーデス(消化器症状が出現した場合)
・全身性強皮症(消化器症状が出現した場合) など
心理的な原因
これまでに述べた、器官自体の問題や神経系や筋系の問題がないにも関わらず、嚥下障害をきたす場合は心理的な原因として分類されます。心理的な原因の場合は「肥満が怖い」「喉の違和感による飲み込みにくさ」といった症状を訴えることがあります。認知症の場合は「食べる」ことや食事の必要性が認識できず、食事拒否などがみられるようになります。
【心理的な原因】
日常生活における注意点
嚥下障害をそのままにしていると、誤嚥性肺炎へ移行したり、入院生活を余儀なくされる場合があります。高齢者が入院生活を送ると、全身的な筋力低下が進み、二次的に身体機能が低下して廃用症候群をきたす可能性がありますので、嚥下障害についての配慮は普段から行いましょう。
注意点としては以下の通りです。
【姿勢】
・あごはやや引く(のけぞるのはNG)
・椅子に座っての食事は、足を床にしっかりとつける
・テーブルは肘が90度くらいの高さのもの
【食事場面で確認すること】
・食事や水分でのむせ
・痰絡み(食事中や食後)
・熱はあるか(微熱も含む)
・食べるものの変化
もし「うまく見れているか心配」「嚥下障害によるものか判断がつかない」といった場合は、農林水産省よりEAT-10という簡易的に嚥下機能を評価できる質問紙がありますので、ご参考ください。
また、食形態を調整することも可能ですが、嚥下機能は人によって異なります。独自に調整すると、逆に誤嚥リスクを高める場合もあります。嚥下障害を疑う場合は、まず専門医に相談してから調整すると良いでしょう。
誤嚥性肺炎
誤嚥とは食べ物(食塊)が気管へ誤って送り込まれる状態です。誤嚥すると食べ物や唾液などと一緒に細菌が誤って「気管→肺」へ運ばれ、肺炎を起こします。この状態が誤嚥性肺炎です。
誤嚥した場合、通常は咳反射によって(むせ)誤嚥した食べ物を気管から吐き出されます。しかし十分に吐き出せない場合や、咳が出ない場合があるのです。この咳が出ない誤嚥を不顕性誤嚥と呼びます。
しかし高齢者の誤嚥性肺炎では、肺炎の一般症状である「熱発」「痰絡み」「咳」がみられず、無症状にみえることも少なくありません。加えて、加齢によってのどの感覚が低下していることで、不顕性誤嚥をきたしていることもあります。
これらの状態に気づくために、まずは普段との違いを見分けられるようにしましょう。具体的には「食欲が落ちた」「活気がない」「痰が絡む」などの様子がみられますので、普段からの様子を観察し、異変をすぐに察知することが大切です。
厚生労働省の調査では、肺炎患者の7割が75歳以上で、高齢者の肺炎患者で約7割が誤嚥性肺炎であったと報告されています。高齢者での誤嚥性肺炎発症は命の危険につながるので、注意していきましょう。
誤嚥性肺炎を予防するポイント
ここではご家庭でできる誤嚥性肺炎を防ぐためのポイントをいくつか紹介していきます。ただし、先述した通り、ご本人の嚥下機能を十分に知っておくことが重要です。医療機関で嚥下機能についてご相談の上、ご家庭で取り入れてください。
【食形態】
食形態を調整する場合「噛みやすいもの」「飲み込みやすいもの」を意識すると良いでしょう。
一例として
・一口大にカットする
・繊維性の高い食材を控える(にら、ほうれん草など)
・くっつくものを控える(餅など)
これらの他にも、レトルト食品や配食サービスもあります。時間がないときや、食形態の程度を確認したいときにぜひ参考にしてみてください。
食事を楽しむためにも嚥下障害の予防・対策を
食事は生きる上で大きな楽しみであり、生きがいにもなります。一方で、加齢によって全身的な筋力低下はすすみ、嚥下に関わる器官の筋力や感覚は落ちてしまいます。誤嚥性肺炎を防ぐには、常に口腔内は清潔に保ち、十分な食事量と運動を日ごろから心がけることが大切です。もし、今回ご紹介した嚥下障害を疑う所見が見られた場合は、すみやかに医療機関に相談しましょう。
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ライター
保本 夢土
理学療法士
この記事の監修者
加藤 隆三
理学療法士
2012年に常葉学園静岡リハビリテーション専門学校を卒業し、理学療法士免許を取得。資格取得後は整形外科やスポーツ現場、介護サービスにて様々な分野のリハビリテーションに携わる。介護現場ではお客様の生きがいや生活の質を高めることをコンセプトとした生活リハビリの業務に従事する。2018年から脳梗塞リハビリBOT静岡の所長に着任、脳梗塞の後遺症に悩まれている方のリハビリやご家族の支援も行う。また地域リハビリテーションにも力を入れており、介護予防教室を50回以上開催し、自立支援型ケア会議に参加している。その他、福祉用具専門相談員に対する講演や大学教授との共同研究等を行っている。地域の皆さんがいつまでも生きがいを持って生活できるよう、最善のリハビリを提供することを心がけている。
経歴:2008年に鈴鹿医療科学大学 理学療法学科を卒業し、理学療法士国家資格を取得。同年~2018年まで静岡県内の療養期の病院、介護老人保健施設に勤務し、慢性期の患者様に携わる。その中で脳血管障害に対する治療を中心に学び、脳卒中患者様を専門に携わりたいという思いから、2019年に脳梗塞リハビリBOT静岡に勤務。運動麻痺の改善に最善を尽くすこと、お客様の身体および精神的な悩みを共有し、少しでも表情が明るくなるよう心がけています。