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2020.05.15 脳梗塞の後遺症

脳梗塞後遺症 麻痺していない半身への影響 ~麻痺側、非麻痺側とは?~

保本 夢土

この記事の監修者

保本 夢土

理学療法士

脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)になると、障害された脳とは反対側の半身(顔も含めた)に運動の麻痺が生じます。麻痺した側を「麻痺側(まひそく)」、麻痺していない側を「非麻痺側(ひまひそく)」と呼びます。

左片麻痺の方の場合

 

今回は、
・「なぜ麻痺していない側を健康な側である健側(けんそく)と呼ばないのか?」
・「麻痺していない側の非麻痺側も正常ではなく問題が起こる」
事についてお話させて頂きます。非麻痺側に対してリハビリをすることが麻痺の改善に繋がる可能性がある事を知って頂ければと思います。
例えば、右足を骨折すると、右足は骨折を患(わずら)った側なので「患側(かんそく)」、左足は健康な側なので「健側(けんそく)」と呼びます。しかし、脳血管障害により麻痺が生じると、患側・健側という言葉を使うのではなく、麻痺側・非麻痺側という言葉を使います。それは、麻痺していない側は健康ではなく何かしらの問題があるため健側ではなく、「非麻痺側(ひまひそく)」と呼びます。

リハビリをするにあたり、この考え方が可能性を広げるためにとても大切になると考えています。お客様の多くが非麻痺側には問題はないと思われています。
しかし…
病前よりも良い方の手足も硬くなっていたり、痛みが出たりしていないでしょうか?
麻痺側を助けるために非麻痺側の手足を一生懸命使うことで、健康とは呼べない状況になってしまっている可能性があります。
非麻痺側と呼ばれる理由が以下となります。

「姿勢を調整する神経」の問題(青矢印)

 

例えば、左の手足を動かそうとすると、右の脳から次の2つの神経を介して指令が出されます。

1.「左手足を動かす指令を与える神経(赤矢印)」
2.「右半身の姿勢を調整するように指令を与える神経(青矢印)」

1.の手足の神経だけではなく、2.の手足とは反対側の姿勢を保つ神経(網様体脊髄システム、前庭脊髄システムと呼ばれる神経)が働くことがポイントとなります。
脳血管障害により右の脳が障害を受けると、この2つの神経に問題が生じてしまいます。1.に問題が生じるので左手足に麻痺が生じ、2.に問題が生じるので麻痺していない側の右半身にも姿勢を保つ上での問題が生じてしまいます。
つまり、麻痺していない側の神経にも障害が起こっている可能性があるという事です。麻痺側を一生懸命リハビリしても良くならない場合、2.の非麻痺側の姿勢(体幹)に対してリハビリをすることが改善に繋がる可能性があるかもしれません。

麻痺していない側が頑張りすぎてしまう問題

 

生活の中で立って左手を挙げるときや座っているときなど、私たちは常に全身を使ってバランスを取っています。上の綱渡りのようなバランスの悪い状況では全身を使ってバランスを保っているのがはっきり分かると思います。このような不安定な場面になればなるほど全身の力が普段より必要となります。
片麻痺になると、想像以上にバランスが悪い状況となります。つまり、何をするにでも全身に余計な力が入りやすくなってしまいます。
特に、麻痺側の手足を動かそうとすると、手足自体が硬くなるだけではなく、麻痺していない側の手足、体幹が硬くなってしまい、健側とは呼べない状況になってしまいます。例えば、左麻痺の方が杖で歩く場合、左足を出すために、右手で一生懸命に杖を床に押しつけて、右足を踏ん張って何とか左足を持ち上げようとする場面を良く見かけます。これを長期的に続けてしまうと右膝や右肩、肘などに痛みが生じてしまいます。
つまり、不安定な状況かつ麻痺している側をかばうために麻痺していない側は知らず知らずのうちに頑張ってしまい硬くなったり、負担がかかっている可能性があるという事です。
以上のことから、麻痺していない側も何かしらの問題が生じている可能性が高いため「非麻痺側」と呼ばれます。非麻痺側が硬くなったり痛みなどの問題が起こったとしても、麻痺側の改善に悪影響を及ぼさなければ最悪良いと思われるかもしれませんが、非麻痺側の頑張りすぎが麻痺側の改善を邪魔してしまうということも証明されています。その現象を「半球間抑制(はんきゅうかんよくせい)」と言います。

半球間抑制

 

健常な脳では、お互いに一方ばかりが働かないように左右の脳が調整し合うことで、両手足を同じくらい自由に動かせることが出来きています。
しかし、脳卒中になると、麻痺の影響で手足が動かしにくいことに加えて、非麻痺側の手足を頑張りすぎて使うことで、さらに障害された脳の働きが抑制を受けてしまいます。その結果、麻痺の脳の働きを邪魔してしまい、麻痺の手足の改善に悪影響を与えしまいます。急性期や回復期からこのような状況になると脳が回復しようとするのを阻害してしまう可能性があります。
したがって、非麻痺側は、硬くなったり将来的に痛みがでる可能性があること、麻痺側の手足の改善に悪影響を及ぼしてしまうことなどリハビリの対象として考える必要があると考えます。綱渡りのように人は全身でバランスをとるため、麻痺側だけにリハビリが必要なのではなく、非麻痺側も含めた全身の関係性を考慮したリハビリ(麻痺側の改善のために非麻痺側をリハビリする、あるいは手の改善のために足や体幹といった他の部位をリハビリするなど)が大切であることを知っていただければと思います。

保本 夢土

この記事の監修者

保本 夢土

理学療法士

経歴:2008年に鈴鹿医療科学大学 理学療法学科を卒業し、理学療法士国家資格を取得。同年~2018年まで静岡県内の療養期の病院、介護老人保健施設に勤務し、慢性期の患者様に携わる。その中で脳血管障害に対する治療を中心に学び、脳卒中患者様を専門に携わりたいという思いから、2019年に脳梗塞リハビリBOT静岡に勤務。運動麻痺の改善に最善を尽くすこと、お客様の身体および精神的な悩みを共有し、少しでも表情が明るくなるよう心がけています。

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