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2020.10.13 脳梗塞の後遺症
脳梗塞後遺症 麻痺側体幹に起こりやすい問題
この記事の監修者
保本 夢土
理学療法士
脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)になると、障害された脳とは反対側の半身に運動の麻痺が生じます。麻痺した側を「麻痺側(まひそく)」、麻痺していない側を「非麻痺側(ひまひそく)」と呼びます。左片麻痺の場合は、右側の半身が非麻痺側となります。
左片麻痺の方の場合
今までは、良い方と思われている非麻痺側にも問題が起こる事をお話しさせて頂き、非麻痺側へリハビリすることが、麻痺側の手足などの機能の改善および動作の改善に繋がる可能性を紹介させて頂きました。とは言え、やはり麻痺側への問題で困っている方が多いので、
・「麻痺側体幹にはどんな問題が起こるのか?」
・「なぜ麻痺側の腰の方が痛くなりやすい方が多いのか?」
についてお話したいと思います。
「麻痺側体幹にはどんな問題が起こるのか?」
麻痺側体幹には、少なくても…
①「運動神経(随意運動)の障害による問題」
②「姿勢制御(随伴性姿勢制御)の障害による問題」
③「姿勢のつり合いによる問題」
の3つの問題が起こると考えられます。
その前に簡単に、人の運動に関わる姿勢制御、随意運動について説明します。
人の運動=姿勢制御+随意運動
以前お話ししましたが、人は動く際に無意識に姿勢を安定させる「(予測的」姿勢制御」と「実際に動く(自分の意思で動かすことを随意運動という)」の2つがコントロールされることで自由に動くことができます。簡単に言うと、無意識に働くのが姿勢制御、意識的に働かせるのが随意運動となります。
下の図では左側が姿勢制御の神経回路、右側が随意運動の神経回路になります。
青=(姿勢制御の神経回路)
赤=(随意運動の神経回路)
(文献1を引用)
例えば、左手足を動かそうとすると、右脳から図1の左側の姿勢制御の神経回路により、左手足が動く前に(予測的)姿勢制御が働き、青色の体の部分をコントロールして姿勢を安定させてくれます。次に左手足を動かす時には、図1の右側の随意運動の神経回路により赤色の体の部分をコントロールして随意運動を起こします。この随意運動の神経は手足の末端(濃い赤)に優位に働きますが、体幹や肩、股関節などを意識的に動かす際にももちろん働きます(薄い赤)。
人の運動は、運動を起こす随意運動の神経経路だけではなく、2つの神経回路(姿勢制御の回路と随意運動の回路)が働くことで楽に動くことを可能にしてくれているのは分かったと思います。よくテレビや健康の情報雑誌で姿勢が大切と言われているのは見栄えだけではなく姿勢制御に関わるためです。
では、麻痺側体幹の①「運動神経(随意運動)の障害による問題」と②「姿勢制御の障害による問題」と③「姿勢のつり合いによる問題」についてお話していきます。
①麻痺側体幹に起こる「運動神経(随意運動)の障害による問題」
例えば、座った状態で『背筋(せすじ)を良くしたい』ときに、意識的に腰(体幹)を伸ばすと思います。これは上の図1の右側の随意運動の神経(腰の部分の薄い赤)が行っています。
これが、右の脳が障害され左片麻痺になる(図2)と、左の腰の随意運動が障害(図2の右側の絵)され、左の腰を伸ばそうとしても十分に力が出せず、伸ばすことが難しくなります。その結果、腰が曲がってしまいます。
障害されるもの:麻痺側(左)体幹の随意運動 図2の右側の左体幹の部分(薄い赤色)
症状:意識的に自由に背骨を曲げる、伸ばそうとするが十分に力が出せず難しい、あるいは動かし方が分からない、動かしている感覚が少ない
②麻痺側体幹に起こる「(随伴性)姿勢制御の障害による問題」
さらに、座った状態で手作業などをする際は、健常者では予測的姿勢制御(詳細は以前のコラムを参考にしてください)が働くため、意識しなくても課題にあった楽な姿勢に保ったり、課題に合わせて勝手に背筋が伸びる(高いものを取るなど、手を挙げるように意識はするが腰を伸ばそうとはしないだろう)ことが出来ます。しかし、片麻痺になると図2の左側の姿勢制御も障害されるため、無意識では伸びることが難しくなり、常に意識し頑張った状態でないと腰が伸びない状態となってしまいます。多くの方は、天井の方向にまっすぐ伸びるのではなく、意識的に背筋を良くしようとするあまり後ろに沿ってしまいます。また、意識的に姿勢を安定させようとするため、課題に合った姿勢ではなく、どの課題でも常に同じ姿勢となる傾向(腰を曲げてやった方が楽なのに無理に腰を伸ばしてしまう、あるいは腰が伸びてほしい時でも曲がってしまう)があります。
障害されるもの:麻痺側体幹(左)の随伴性姿勢制御 図2の右側の左体幹の部分(青色)
症状:課題に合わせて無意識的に腰が曲がる、伸びてくるが起こらない、いつも同じ姿勢あるいは意識的に伸ばすしかないため、腰が反る。
③麻痺側体幹に起こる「姿勢のつり合いによる問題」
左片麻痺の方の場合、右(非麻痺側)の予測的姿勢制御が働きにくいため(図2の右側)、左手を横に広げようとすると、図3のように右体幹が右に倒れてしまいます(黄色矢印)。そうすると、体は全身でつり合いを取ろうとして、左体幹を赤矢印の方向に押すような姿勢となります。この際に、左脇から腰にかけて(図3の緑の線)負担がかかってしまいます。
同じ姿勢を取って頂けると、緑の線の部分の筋肉がつっぱるのが体験できると思います。この代償の取り方は、足を一歩だそうとする時、立つ時、座るときにも似たような姿勢が見られます。つまり、左の麻痺側体幹は随意運動の障害や姿勢全身のつり合いの代償も受けてしまうという事です。
以上のように、麻痺側体幹は、「運動神経(随意運動)の障害による問題」と「(随伴性)姿勢制御の障害による問題」と「姿勢のつり合いによる問題」の3つが起こると考えられます。つまり、意識的に動かす練習(随意運動の練習)だけではなく、無意識に姿勢を安定させられるようなリハビリ、および全身のつり合いを考慮したリハビリが必要になると考えられます。
なぜ麻痺側の腰の方が痛くなりやすい方が多いのか?
図3でお話ししたように、左片麻痺の場合であれば、左の脇から腰にかけて常に負担がかかり、力が入っている状態と想像して頂ければいいと思います。図3の格好を真似するとわかりますが、何をするにもこの姿勢では左の腰が痛くなってしまうのは想像できるかと思います。人や日によっては腰ではなく、脇が痛いと訴えられる方もおられますが、同じ原因の場合が多いです。また、逆に右の腰が痛いと訴えられる方もおられます。図3の右の横っ腹の縮め具合をさらに強くする(黄色の矢印)と、右の腰が痛くなります。
今回は、麻痺側体幹に起こる問題についてお話をさせて頂きました。脇や腰に痛みが出る方は多く、原因が分からず不安になられている方がたくさんおられます。今回紹介したのは痛みの原因の1つの可能性ではありますが、不安が軽減すればうれしく思います。実際には、ここに記載させて頂いた問題以外にも人によってたくさんの問題を抱えておられます。すべての問題を取り除くのは難しいですが、まずは少しでも患者様の体を一緒に共感できるように努めたいと思います。
【参考文献】
1)高草木 薫:大脳基底核による運動の制御 臨床神経学49巻6号(2009.6)
この記事の監修者
保本 夢土
理学療法士
経歴:2008年に鈴鹿医療科学大学 理学療法学科を卒業し、理学療法士国家資格を取得。同年~2018年まで静岡県内の療養期の病院、介護老人保健施設に勤務し、慢性期の患者様に携わる。その中で脳血管障害に対する治療を中心に学び、脳卒中患者様を専門に携わりたいという思いから、2019年に脳梗塞リハビリBOT静岡に勤務。運動麻痺の改善に最善を尽くすこと、お客様の身体および精神的な悩みを共有し、少しでも表情が明るくなるよう心がけています。