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2020.11.17 脳梗塞の後遺症

脳梗塞後遺症 歩行の問題について ~どのような歩行を目指せばよいのか?~

保本 夢土

この記事の監修者

保本 夢土

理学療法士

脳梗塞後遺症

片麻痺になると、生活の中で多くの事が大変になります。特に、歩行による移動が大変になると生活全般がおっくうになり、起きること自体が嫌になり生活の質を下げてしまいます。
ですので、今回は歩行について考えてみたいと思います。
多くの方が「病気のような歩き方はしたくない」「歩きやすくなりたい」と訴えられます。
では・・・
①正しい歩行、楽な歩行とは何か?
②歩行の問題は何か?
③どのような歩行を目指せばよいのか?
について、私なりの考えも踏まえお話ししたいと思います。

病院に入院すると、多くの方が病院内での生活を少しでもできるようになるために、あるいは自宅に早く帰るために早期から歩く練習をします。入院期間内での限られた時間の中で歩行による移動手段を何とか習得しないといけなくなります。片麻痺になったばかりの体で歩く練習をすると、病前のようには当然歩けないため、何とか頑張って力ずくに歩こうと努力します。リハビリで歩き方や注意点の指導を受けたり、自分なりに病前の歩き方を思い出しながら歩く練習をすると思います。病前のように歩きたい、あるいは病人に見られたくない、楽に歩きたいために、皆さんが正常な歩行を目指しておられると思います。では、正常な歩行とはどのようなものなのでしょうか。

①『正しい(正常な)歩行、楽な歩行とは何か?』

 

脳梗塞後遺症

まずは、何をもって正常な歩行と言えるのか、何をもって歩きやすくなったと言えるのかを考える必要があります。
色々な考え方があるとは思いますが、正常な歩行の共通している部分は、歩き始めの「3,4歩は意識的」であること。

それ以降は、意識的かつ努力的ではなく、「自律的かつ効率的」であること。
歩くこと自体が目的ではなく、あくまでもどこかに向かうための移動手段であるため、歩くことや体を意識しないのが理想であること。
歩行の手がかりや力源は、「本人の意図(歩き方ではなく達成したい課題)」や「環境の変化」であること。
長距離でなければ、歩くこと自体は「楽」であること。
と考えられます。つまり、正常な歩行=楽な歩行であり、楽でないと正常な歩行とは言えないということです。

ですので、
病気のような歩き方 =非効率で疲れやすく大変
歩きやすくなる   =効率的な歩き方に近づくこと
だと考えます。

また、正常な歩行には、「前進」「安定」「適応」の3つの能力が必要と言われます。

「前進」・・・できるだけ頑張らずに省エネで進むこと

「安定」・・・長時間、体を起こした直立位を保てること

「適応」・・・環境(景色・地面・距離)の変化に対し体を合わせること

つまり、正常な歩行とは歩く格好だけではなく、上記の3つの能力により「楽」に歩けることだと考えます。人の体にはこれらの能力を可能にする身体機能が備わっています。身体機能についての詳しい話は今後機会があれば紹介させて頂きたいと思います。麻痺になると、この能力が使いにくくなってしまいます。身体機能が残っているのにもかかわらず、意識的に歩く練習をすればするほど、能力が使えなくなる方が多いように感じます。まずは、自分の目指したい歩行はどのようなものなのかを考え、それに向かってリハビリを行っていくことが大切だと考えます。

快適介護生活

②『歩行の問題は何か?』

お客様からの歩行時の訴えは多種にわたります。
例えば…
・麻痺している足が重くて出しにくい、足がまっすぐでない(外にぶん回してしまう)
・足首が動かないためひっかかる、装具を外せない
・もっと腰を伸ばして歩きたい、下ばかり向いてしまう
・左右にふらふらする
・足で歩いている感じがしない、足がついている感覚が分からない
・麻痺している足が頼りない
・歩いていると麻痺している肘・手に力が入り曲がってくる、手が振れない
・早く歩けないから、横断歩道が歩けない
・人混みだと体が固くなるため、恐くて車いすになってしまう
・平らなところは良いが、不整地(でこぼこや斜面)は歩けない
・恐い、すごく疲れる
・膝や腰などが痛い
など、挙げればきりがないほど、人により困っておられることは様々です。
このような訴えがある方のほとんどが以下のような対策・工夫をされています。

対策・工夫

※対策・工夫を赤字で記載します。
・麻痺している足が重くて出しにくい、足がまっすぐでない(ぶん回してしまう)
「重いため足を上に持ち上げるようにしている。まっすぐ出すように意識している。」
・足首が動かないため地面にひっかかる、装具を外せない
「ひっかからないようにつま先を上に持ち上げるようにしている」
・もっと腰を伸ばして歩きたい、下ばかり向いてしまう
「腰を伸ばして前を向くようにしている」「下を向かないようにしている」
・左右にふらふらする
「体がふらつかないように、お腹や腰に力を入れている」
「ふらつかない様に杖をしっかり持つようにしている」
・足で歩いている感じがしない、足がついている感覚が分からない、麻痺している足が頼りない
「足に体重をかけるように気を付けている」
「どこに体重がかかっているか意識している」
「親指に体重をかけるようにしている」
・歩いていると麻痺している肘・手に力が入り曲がってくる、手が振れない
「手を振るように意識している」

このように、多くの方が少しでも楽に歩けるようになるために、色々な工夫をされています。共通していることは、意識されている点が体の使い方や歩き方ということと、頑張っておられ楽に歩いているようには見えないことだと感じます。これでは、先ほど述べた正常(楽)な歩行には近づいていないように感じます。例えば、正常な歩き方・格好を目指すために「踵からつけて」「腰を伸ばして前を向いて歩いて」「つまずかないように足を上げて歩いて」「足をまっすぐ出して」「手を振って歩いて」「杖に頼らないように歩いて」「膝を伸ばして」など、歩き方や体について指導を受けることがあると思います。格好が正常に近いにこしたことはありませんが、正常な格好を目指すために意識して疲れる、あるいは大変であればそれは正常な歩行に近づいているとは言えないと考えます。正常な格好や歩き方は、意識して作るものではなく、正常な歩行の結果によって、結果的に正常な格好が作られているものだと思います。もちろん、歩けないより意識して歩ける方がもちろん良いと個人的には思います。ですが、より楽な歩行を一緒に目指したいというのが理学療法士としての私の思いでもあります。もちろん、意識的な歩行となる原因が麻痺や筋力、関節の硬さ、感覚障害などの身体機能から起こっているとは思いますので、それらに対してリハビリは必要です。ですが、それらの身体機能だけではなく、本人様のどのように歩きたいかという「意図」も大きく関わってきます。中には意識することが大切だと思われている方も多いと思いますが、今回は本人様の歩行に対する考えを変えて頂ければと思います。

③では、『どのような歩行を目指せばよいのか?』

正常な歩行、「前進」「安定」「適応」から考えると、
・体や歩くことをできる限り意識せずに「楽」に前に進めること。
・体が直立位で起き、姿勢を保つこと自体は「楽」であること。
・考え事をしながら、周りをみながらなど「ながら歩き」ができること。
・歩く中での手がかりは、体を意識することではなく周りの環境が手がかりとなること、
・歩くこと自体は楽、あるいは大変ではないこと。
を目指したいと考えています。「踵からつけて」「腰を伸ばして前を向いて歩いて」「つまずかないように足を上げて歩いて」「足をまっすぐ出して」「手を振って歩いて」など、意識することで、あるいは意識する部分を変えることで楽に歩けるようになる方もおられますが、人によってはかえって歩きにくくなる方もおられます。健常者がこのような事を意識して歩くとぎこちなくなり歩きにくくなってしまいます。長く続けると痛みがでることもあります。歩くというのは、本来は意識的なものではないことを知っていただき、どのような歩行を目指したいかを再度考えて頂けると、今よりも良くなるきっかけになるかも分かりません。その方にとって楽に歩けるようになるには何が必要なのかを考え一緒にチャレンジしていきたいと思います。

保本 夢土

この記事の監修者

保本 夢土

理学療法士

経歴:2008年に鈴鹿医療科学大学 理学療法学科を卒業し、理学療法士国家資格を取得。同年~2018年まで静岡県内の療養期の病院、介護老人保健施設に勤務し、慢性期の患者様に携わる。その中で脳血管障害に対する治療を中心に学び、脳卒中患者様を専門に携わりたいという思いから、2019年に脳梗塞リハビリBOT静岡に勤務。運動麻痺の改善に最善を尽くすこと、お客様の身体および精神的な悩みを共有し、少しでも表情が明るくなるよう心がけています。

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